地平の意義

「ハゲタカ」スピンアウト・ノヴェル


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Deal 9


 縋り付く様な手に、三島はどうすれば良いのか分らず慌てた。
その後ろから、聞き覚えのある声がかかった。
「どうしたっ?」
 振り向くと鷲津が立っていた。

 何が何だか分らない。

「び、病院に連れてって下さいッ…!」
 説明の仕様もなかったが、聞くとすぐ、鷲津は三島達をまと
めて車に乗せた。



「彼女…何なんだ。」
 バックミラー越しに三島の気遣う妊婦をチラリと見て鷲津が
言った。
「…分りません。」
 鏡に男の怪訝な表情が写る。
「でも…」
 そこで言葉を切って、三島は鷲津の背を見た。
 それ以上を、言葉にはしなかった。


 彼女はそのまま、運んだ先に入院した。
 ご家族の方ですか、と 聞こうとした看護士が、振り向いた
鷲津と三島に驚き恐縮して去って行く。
「…いい迷惑だ。」
 大きな溜息を吐いて鷲津がそう言うと、三島は肩を小さくし
て消える様な声で謝った。それを見ながら、鷲津は間をおいて、
もう一つ息を吐いた。
「……別に良い。君が私に頼るなんて余程だ。」
 そう言うと、男は立ち去った。
 ひとり病院の廊下で、三島はそこに掛けられた表札を眺めた。

 マスダ ユイ




 翌日、午後一番で三島は黒田を訪ねた。
「昨日の今日で話す事なんて無いけどなぁ(笑)」
「私には出来たんです。」
 どうかお手柔らかに、とふざける黒田に、構わず直球で「マ
スダ ユイさん て知ってますか?」と聞く。
 瞬間、顔色の変わった男の手を取ると、三島はぐっとそれを
引き寄せた。
「な、何…!?」
「インタビュー場所、移って良いですか?」
 有無を言わせないその眼力に、黒田は大人しく頷いた。


 スケジュールにぽっかりと時間が空いた。
 いつもなら他の予定を詰め込む所だが、鷲津は何故か病院に
向かっていた。
 近くで降りて、車を返す。
 何故来たんだと自問して溜息を吐くと、昨日の妊婦が何やら
慌てて何処かに運ばれて行くのが見えた。
「あ!鷲津さんッ」
 昨日の看護士が自分を見つけて駆け寄って来る。
「アノ、アノ!お腹の子のお父様じゃ…」
「ありません。通りすがりで運んだだけです。」
「じゃあ三島さんは…!?」
「彼女も知らないんじゃないですか?」
 努めて冷静に返って来る鷲津の答えに、看護士はもどかしそ
うに顔を歪めた。が、その時。
「早く来て下さいってば!」
「痛いよ!」
 辛気臭い病院の廊下に、不釣り合いな華を持つ男女が現れた。
 まるで駄々を捏ねる様なひょろりとした男をやっと連れて来
ると、三島は一つ息を吐いて病室を指した。
「さぁ!行って下さい!!」
「何で鷲津さんがいるんですか?」
「話逸らさないッ」
「……話は特に聞きたくないが、彼女ならさっき運ばれたぞ。」
「あ、そ、そうなんですッ! 出産が早まったみたいで分娩室
に!!」
 聞くや、黒田は看護士の手を両手で取ってその場所を聞いた。
「あ…そこ真っ直ぐ行って、突き当たったらずっと右…」
「有り難うございます。貴女に良い出会いがありますようにv」

 疾風の如く駆けて行く男の背に、名残惜しげに視線を投げる
看護士を見て、三島は「さすが…」と思わず洩らした。鷲津は、
どこまでも好かない男だと思いながら、何処かにあんな感じ
の部長がいたなと思い出していた。







posted by Team Novelize”HAGETAKA” 02:09 |-|-|pookmark