地平の意義

「ハゲタカ」スピンアウト・ノヴェル


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Deal 8



「SENJU(センジュ)と言えば、近年はネットゲーム…元は家
庭用遊具の大手として、サンデーと並んだ企業だ…。そこの社
長が、どうしてそんな事を?」
「本気で言ってんのッ??」
 鷲津の問いに、間は吹き出すように笑った。
「その『近年』ってのが、センジュの連中が金で契約した『俺
ら』のモン! 初めは、金出してくれて、好きなモン作れんだ
ったら良いなーとか思って契約したんだけど、これが、品位が
どーのとか、コスト的にーとか、挙句この頃は、出しても売れ
ないんじゃ?とか爺共言い始めてさ…」
「だから、買収に乗じて契約を切り、金だけはたっぷりくれる
、理解ある後盾を得ようと?」
「ま、そんな感じかな♪」

  ナメてんのか。

 思ったが、次の言葉に、鷲津はふと。
「あと、会社を『再生』して欲しいと思ったんだよ。俺達に金
を割いた所為で、ワリ食っちゃったのはずっと働いてた人等だ
からさ。俺等がいなくなっても、赤字は残るっしょ?」
「むしろ、多くなるばかりでしょうね。付け焼き刃の転換など
何の意味も無い。」
「だから再生してくれって頼んでんじゃん。 あそこに働いて
る人等は、自分の作るモノに誇り持ってんだよ?」
 暫く沈黙した。窓の外には、人の営みを示す灯りが無数に輝
き、移動する。


 この中の、どれ程の人間が…

「『買収』の件は、考えておきましょう。もう一件に関しては
、返事はしかねます。」
「アンタに頼むのもお門違いなんだろうけどさ!」
 間はまた、からりと笑った。
「俺達は、好きなモンを好きなだけ作れればシアワセなんだ。
でも、だからって、俺等が消えた後、会社がどうなっても良い
とは思わない…。頼むから、あの会社『本当に』立て直してく
れよ!」
 全く『人にものを頼む』という態度ではなかったが、不思議
とその言葉は、彼を社長たらしめた。
「…約束は出来ません。」
「金なら、俺等が全部払うよ。俺達は『ココ』があれば生きて
行けるから。」
 頭部を指して青年は笑った。

 金に興味は無い。でも金がなきゃ好きなモノは作れない。だ
ったら金のある所にいけば良い。
 でも金に興味は無い。貯まっていくだけのモノなら、惜しみ
なく知った現実にばら撒こう。

 どこかで見た様な、聞いた様な話だと思い、鷲津は踵を返し
た。すると…
「そういえば あの娘、ヤバくないの?」
 背越しの問い掛けに、一瞬立ち止まると、男は無言のまま早
足になって去って行った。
 

「本当に、今日はどうも有り難うございました…」
「私も楽しかったですよ。」
 お世辞ですけどね、とエレベーターを待ちながら黒田が付け
足すと、三島は少し困った顔をした。
「…スイマセン…生意気な口を…」
「良いですよ。あんなにハッキリ言ってくれる人間は社内にい
ない。…それがもう、一種のサインなんでしょうね。」
 淡々と喋る男の瞳からは、結局、最後まであの暗さが拭えな
かった。
「…今度は、正式にインタビューをお願いしても?」
「モチロン。貴女の頼みなら何時でもお受けしますよ!」
 そう言いながら、黒田は三島だけを乗せると、エレベーター
を閉めた。

 その笑顔を、もう脱ぐ事は出来ないのだろうか…

 地上へ近付きながら、目に焼き付いたそれに、三島は思いを
馳せた。
 笑顔を失った男が、何故か重なった。




 三島を見送ると、黒田は力無い息を吐いた。その瞬間、真後
ろのエレベーターで到着の音が鳴る。
 内心かなり驚いて振り向くと、何故か鷲津が立っていて二重
に驚く。
「あ…何か?」
「忘れ物をしまして。」
 そう言いながら、自分とその周囲にしか注意を払わない鷲津
に、黒田はすぐ『忘れ物』を理解した。
「ああ、彼女ならさっき、そこのエレベーターで…入れ違いで
したよ。」
「エスコート不足じゃないですか…?」
 吐き捨てるように言うと、鷲津は再度エレベーターで下って
行った。
 黒田は、また呆気に取られた。

 このビルの外は人通りもあるし、車だってすぐ拾えるのに…

 どういう訳だか、あのハゲタカが、あんな娘一人に必死にな
ってるなんて。
 どうにも可笑しくて、黒田は一人で腹を抱えた。
 笑うだけ笑ってから、ふと、夜景を眺めた。



 三島は溜息を吐きながら、クリスタルネット本社ロビーを出
口へ向かった。
 今日聞いた事では記事としての力が無い。もう一度黒田にイ
ンタビューを申し込まなくては…いけないが、あの感じだと完
璧に嫌われた…あ、頼まれた記事も書かなきゃ…
 眉間に皺を寄せ回転ドアを出るとすぐ、三島は垣根に座り込
んだ人影に気付いた。

 病人ッ!??

 考えていた事は全て飛び、駆け寄ると、それが身重の女性だ
と分る。
「と、とにかく救急車ッ」
 自分の鞄を慌てて漁る三島の袖を掴むと『彼女』は振り絞る
ように言った。
「黒田さんて…いますか?」






posted by Team Novelize”HAGETAKA” 03:24 |-|-|pookmark