地平の意義

「ハゲタカ」スピンアウト・ノヴェル


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Deal 6

 

その日の事は、途切れ途切れで覚えている。




 ーー 三年前 1998年 ーー




「吉成君っ…!!」

 朝、いつも通り気楽に出社して来ると、本木が形相を変えて
縋り付いて来た。
「なに叔父さん…てか、吉成クンてやめ…」
「社長がッ!お父さんがッッ!!」
 頭の中が、真っ白になっていくのを感じた。


 気が付くと病院の椅子に座っていた。
 小さな機械音は、16時間後に平坦に鳴った。

 実感が湧かなかった。何も。

 本木を見上げた。この男もまた、自分と同じだ…
 目が合って、開口一番、男が言った。
「…引き…継ぎを…しなくては…」
 良い悪いではない。自分達はそういう場所に生きている。
…悲しむのなんて二の次だった。

 役員会の準備によろよろと向かう本木の背中を眺めた。
 あの時、やけに心は静まっていて、悟りを開くってこんな感
じだろうかとぼんやり思った。
 だが、それも全てが始まるまでの、最後の平安。

 事前に聞かされていた通り、遺言には、経営権の副社長への
譲渡が記されていた。だが…

「私は…辞退致します。」

 たった一言で、場は騒然となった。
 意味を理解するのに、暫く時間がかかった。
 よく考えれば社長になったのは、この瞬間だ。

 酷く頼りなさそうに向けられる視線…
 気圧で、呼吸が上手く出来なくなった。





「で…蓋を開けてみれば、内情は真っ赤っか。先代がどう抜け
ようとしてたか知らないけど、私には彼の様な才能も無ければ
、経験も無い。傷を出来るだけ小さく抑える事に集中して…そ
れだけに集中していたら、うっかりハゲタカの爪が食い込んで
しまった、という訳です。」
 自虐に近い話の締めに、黒田はやはり、にこりと笑った。三
島は、その笑顔を黙って見る。
「…怨んだりは、しないんですか?」
「誰を?」
「本木さんを…」
 問いに、男は自嘲したように笑った。
「言ったでしょう? 彼と私は同じだったんです。私が同じ立
場でも…」
「…そうじゃないッ!!」
 三島の大声に、黒田は少し驚く。周囲の客が、チラチラと様
子を見た。
「…社長職を本木さんが引き継いでいれば… 黒田さんが、そ
の間にもっと経営を学んで…それから継いでいれば……クリス
タルネットは こんなに長く赤字損益を出さなかったかも知れ
ないんですよッ!?」

 熱くなった三島の言葉に、黒田は冷めた目して息を吐いた。
「もしも〜って……すごく無意味で、嫌いな言葉だよ。」

 そんなもの妄想する時間は、持たない。

「…同じだったんだよ…」
 言い聞かせる事で保っているのだとしても、それの何所に問
題があるとも思わない。






posted by Team Novelize”HAGETAKA” 15:38 |-|-|pookmark